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10年の歳月がくれたもの・8

三度目の一時帰宅

2013年に町の避難区域が再編成され、富岡町は帰還困難区域・居住制限区域・避難指示解除準備区域の三か所に分かれることになりました。

居住制限区域・避難指示解除準備区域は日中の立ち入りが自由に出来ることになりましたが、私の実家のある場所は帰還困難区域に指定され、許可がなければ入ることはできないままでした。

2014年の4月中旬、私は富岡町に三度目の一時帰宅をしました。

今回はちょうど夜ノ森の桜が咲くころに行くことができたので、震災後久しぶりに桜を見られることをとても楽しみにしていました。

富岡町に着くと、町の至る所に植えられている桜が満開に咲いていて、青い空に薄いピンク花がとても綺麗に映え、美しい風景が広がっていました。

 

そのまま車を走らせ夜ノ森地区へ向かうと、道の向こうに少しずつ桜が咲いているのが見え、両側にソメイヨシノが咲き誇る通りに出ました。

頭上に桜の天井が広がる様は、私が以前から知っている風景のままです。

私たちと同じように桜を見に来た方々がちらほらと見え、今までの一時帰宅のときより少し人気を感じました。

やはり、皆この桜を大切に思っているのかなと思いました。

この風景だけを見たら、とてもここが避難区域になっているとは思えませんでしたが、道を進んでいくと立ち入りを禁止するフェンスが見えました。

道一本を隔てて立ち入りが厳しく制限されていることに、頭では理解出来ていても心情的には不条理さを感じずにはいられませんでした。

守衛の方に立ち入り許可証を見せフェンスの中に入ると、先ほどとは打って変わって、しんとした空気を感じました。

帰還困難区域内の桜通りには、巡回中と思われるパトカーが一台走っているだけで、私たちの他には誰もいないようでした。

震災から三年経ち、同じ町の中に少しずつ時間が動き出した地域と、時が止まったままの地域が同時に存在していることに、今までとは違う変化を感じました。

 

このとき、今までとは違う変化は私たち家族にも訪れていました。

兄が結婚することになり、今回の一時帰宅に兄の婚約者の方も同行することになっていたのです。

私はこの日初めてその方にお会いすることになっていたので、少し緊張していました。

婚約者さんは笑顔の素敵な、とても明るい感じの方で、私にも気さくに接してくれました。

挨拶をして夜ノ森の桜の下で皆で写真を撮った後、一緒に実家へ向かいました。

初めての実家訪問が帰還困難区域への一時帰宅になってしまったことに、この婚約者さんはどう感じるんだろう…

と、私は少し不安に思いましたが、実家へ到着すると、婚約者さんは兄から説明を受けながら、興味深そうに家の中を見て回っていました。

小さい頃のアルバムの写真を見ながら二人で談笑している姿を見て、良い人とご縁があって良かったねと、私は心の中で密かに思いました。

 

この日の帰り際、玄関の前で記念に皆で集合写真を撮りました。

全員が防護服を着ていましたが、皆の表情は明るさに満ちていました。

 

***9へつづく***