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10年の歳月がくれたもの・6

アリオス現代美術館!

震災から二年後の2014年3月。

私は福島県いわき市にある芸術文化交流館「いわきアリオス」で行われるグループ展に参加させていただくことになりました。

この展覧会は、東京藝術大学の「藝大Am+いわき」という、アートマネージメント人材育成を目的としたプログラムの一部として企画されたものでした。

このプログラムは、地域の一般の方々から受講生を公募し、展覧会やワークショップに企画段階から参加することを通じて、アートマネージメントの実務を体験してもらうという趣旨のものでした。

私はこのプログラムの展覧会「アリオス現代美術館!」の出展作家として声を掛けていただき、いわきアリオスの施設内に自分の作品を展示することになりました。

高校生の頃いわき市の学校に通学していた私にとって、いわき市は思い出の場所です。

いわきアリオスが建つ前に同じ場所にあった平市民会館にもよく行っていたので、そのような場所で今回展示ができることをとても嬉しく思っていました。

震災後、富岡町からいわき市に避難している友人や知人の方々も沢山いたので、もしかしたら気軽に見に来ていただけるかもしれないという期待もありました。

せっかくここで展示が出来ることになったからには、やはり故郷をテーマにした作品を展示したいと思い、私は新しい作品作りに取り組むことになりました。

わたしのおうち

私が割り振られた展示場所は、大ホールの前にある大きな柱の壁面二か所と、エントランスの壁面、そして小劇場前の壁面の合計四か所でした。

一か所には一昨年に描いた「Inner blossom」の二点を並べて展示したいと思っていて、その他三か所に新しい作品を展示するプランを考えました。

Inner blossomの世界観に近い、大き目の油彩を描きたいと思い、やはり自分の個人的な出来事と震災を関連させた作品を描くことにしました。

そうして出来上がった作品が「わたしのおうち」という作品です。

震災が起きるちょうど一か月前、以前から私の家で飼っていた愛犬が散歩中に交通事故に遭い、突然亡くなってしまうという出来事がありました。

家族皆で可愛がっていた愛犬でしたので、当時その知らせを聞いたとき、すごくすごく悲しくて、どうして亡くなってしまったのかと泣きました。

しかし、その一月後に震災が発生し、家族皆避難しなければならなくなりました。

当時、ニュースなどで警戒区域内に置き去りにされた(置き去りにするしかなかった)動物たちのことをよく見ていました。

動物たちも飼い主にとっては家族と同様大切な存在です。そこにどれだけの悲しみや悔しさがあったことでしょうか。

あのとき、愛犬がもし生きていたらきっと家族はなんとか連れ出したと思いますが、もしかしたらあの子はこうなることを予測していたんじゃないのかなと、その後両親と話すこともありました。

愛犬は実家の庭に今も眠っていて、そこで家を守ってくれているような感じがしたのです。

以前一時帰宅したときに感じた植物達の静かで力強い生命力と、この愛犬のことを重ね合わせて、私の震災の物語としてこの作品を描きました。

春待つ

残るもう二か所の壁面には、平面作品ではないものを展示しようと思いました。

よくモチーフとして絵に描いていた折り紙を、いつもとは逆に、自分で描いた絵を紙にプリントしてオリジナルの柄の折り紙を作り、それを折って壁面に沢山貼り付けるという方法を思いつきました。

展覧会の会期がちょうど3月だったので、夜ノ森の桜をイメージした桜の絵を描き、それをトレーシングペーパーに印刷したものを蝶の形に折り、「春待つ」という俳句の季語をタイトルとしてつけることにしました。

この言葉は、「長く厳しい冬が一段落して寒い中にも時折春の訪れを感じる頃、新しい季節を待つ気持ちが強まる。早く春よ来い、来てほしいと願う気持ちである」という意味を持つ言葉で、まさに今避難中の人々が、遠くから故郷を想う気持ちに似ているなと感じ、引用することにしたのです。

とても多くの蝶を折ることになったので、両親や遠方に住んでいた姉にも折るのを手伝ってもらった、思い出深い作品になりました。

 

嬉しかった解説文

そして展覧会初日を迎え、オープニングレセプションが開かれました。

他の展示作家の皆さんもいわき市にゆかりのある方々がほとんどで、皆さん震災と向き合った作品をそれぞれ展示しておられました。

久しぶりにいわき近郊に住んでいる友人や知人の方々、母校の恩師にもお会いして直接お話することもできましたし、東京からいつもお世話になっているギャラリーのオーナーご夫婦も見に来て下さりとても感激しました。

このとき会場では、講座の受講生の方々がそれぞれ担当する作家の作品解説を書いたパンフレットが配布されていました。

私の解説を担当してくれた受講生の方は、私の母校の高校生の女の子でした。

それまで何度かメールで彼女とやり取りをし、私の作品の解説文を書いてくれたのですが、私が作品を通して伝えたいことがとても簡潔に書かれており、すごく嬉しかったです。

その解説文は、私が今やっている方向性は間違っていないよ。という肯定の言葉に感じられたのです。

今もこのパンフレットを大切に保管しています。

 

この展覧会を通して、いわきアリオスやいわき市立美術館、藝大の担当者の方々とも知り合うことができ、皆様の力を借りてとても良い経験をさせていただけました。

学生時代からいつか福島県内で展示ができたらいいなと思っていた私にとって、本当にこのような素晴らしい機会を与えていただけたことに、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

 

***7へつづく***